読むのにかかる時間:20分くらい
こんにちは。
ハリセンボン近藤春菜さんと同い年、1983年生まれの主婦です。
校長先生じゃないですが、師走の過ぎるのは早いですね。
毎年10月くらいに秋だなーなんて思ってからの過ぎ去り、尋常じゃないですよね。
さて今回は、【読書代行】やってみます。
そんな人のために、読書を代行し「読んだみたいに内容がわかる解説」を10〜20分で読める記事にしてお届けする。
当然ネタバレありです!
さて第1回目のお題は
『こころ』夏目漱石
誰しも一度は題名を耳にしたことがある小説ではないでしょうか。
私は20代前半の頃に一度読んだのですが、「何が言いたいかさっぱり」でした。
登場人物全員の挙動に共感できなすぎる状態。
そして、40代になった今再読したところ感想が変わり、漱石が描きたかった人間の「こころ」のことが、なんとなく分かったような気がしています。
筆者についてはこちら。偏りのある人間ですが、趣味趣向が合えば嬉しい限り♪
自己紹介part1(経歴編)
自己紹介part2(内面編)
『こころ』はどんな話?
夏目漱石の『こころ』(1914年発表)は、人間の孤独や罪悪感を描いた、日本近代文学を代表する作品です。

物語は「私」と「先生」の交流を軸に進み、後半で「先生」が抱えてきた過去の秘密が明かされます。
あらすじ(2行で説明)
若い「私」は、どこか影のある「先生」に強く惹かれます。
やがて先生は、自身の足かせとなり人生を縛っている、消えない罪を手紙で告白します。
時代背景(これ知らないと理解できないほど重要)
舞台は明治末期。
明治の終わりと共に、人々の価値観が大きく揺らいだ時代です。
近代化が進み、個人主義が広がる一方で、人と人とのつながりが弱くなり、人々は「どう生きるべきか」に悩み迷っていました。

なので、「こころ」の登場人物も、この時代に起こった以下の出来事の影響をダイレクトに受けています。
明治天皇の崩御(1912年)
明治天皇の死は、「明治という時代の終わり」を象徴する出来事。
近代化・国家中心の価値観が一区切りつき、人々の精神的支柱が揺らいだ。
乃木希典(のぎまれすけ)の殉死
天皇崩御の直後、乃木将軍は「殉死」を選びます。
これは、すごいスピードで近代化が進む日本において、
といった旧来の精神の表出として、社会に大きな衝撃を与えました。
『こころ』では、明治的精神を体現する存在として描かれる主人公の父が、乃木将軍の殉死に強い影響を受けています。
対して、「先生」は主人公の父とは反する近代的(個人主義)的な思想を持っており、おそらくそこが主人公が先生に惹かれた点だと思います。
乃木希典は、国家に尽くした英雄であると同時に、近代と旧来の価値観の狭間で苦悩した悲劇的存在として理解されている人物です。
国民からは「乃木将軍」「乃木大将」と呼ばれ敬愛されていましたが、その一方で「近代国家に相応しくない」などという批判的な意見も多くもあったそうです。
つまり乃木希典は、功績と悲劇性の両面を併せ持つ人物で、この時代を生きた人々にの精神にも大きな影響を与えたのです。
- 日露戦争で第三軍司令官として旅順(りょじゅん)要塞攻略を指揮し、日本の勝利に大きく貢献
- 誠実・質素・忠義を重んじる姿勢(明治天皇への忠義)
- 当時の武士道精神の理想像として「乃木将軍」「乃木大将」と呼ばれ国民からも尊敬を集めていた
- 学習院(皇室ともゆかりの深い教育機関)院長として青少年教育にも尽力
- 旅順攻略では勝利したものの、人命を顧みない猛攻により多大な犠牲者を出した
- 戦術的には無謀だったとの批判も根強い
- 二人の息子を戦争で失ったことへの自責の念が深い
- 明治天皇崩御後に殉死を選んだ行為が、近代国家にふさわしくないとの評価も

乃木希典については、以下のような作品が有名です。
どちらも、今後レビュー記事を予定しています。
- 『二百三高地』1980年
- 日露戦争での旅順攻略を生々しく描いた映画
- 乃木将軍役は仲代達矢
- 主題歌「防人の歌」さだまさし
- 『殉死』1967年
- 司馬遼太郎による、「乃木希典の生涯と殉死に至るまでの精神的な背景」を描いた歴史小説
夏目漱石『こころ』(1914年発表)
1914年は、明治天皇の崩御とそれに続く乃木希典の殉死によって、明治という時代の精神が終わりを迎えた年です。
国家への忠誠や自己犠牲を重んじる国家中心の価値観が象徴的に幕を閉じた一方で、社会は個人主義へと移行しつつありました。
『こころ』はそのような空気の中で書かれた作品。
先生は、この価値観の転換期に個人主義を選び、孤独と罪悪感に苛まれ、苦悩します。
一方で主人公の父は、旧来の道徳や共同体意識を体現する存在であり、先生とは対照的。

この対比によって、私たち読者も主人公の「私」とともに、「国家」から「個人」へ移る時代の不安を感じ取れる構図になっています。
主な登場人物と特徴
主要な登場人物を紹介します。
『こころ』は若い学生である「私」が語り手となって物語が進む一人称小説で、登場人物がとても少なく相関図はシンプル。
あくまで私の個人的な印象ですのであしからず。
「私」(語り手)
先生
「こころ」というタイトルは、先生の「こころ」のことだと思う。
奥さん
K(ケー)
私の両親(特に父)
人物関係を一言でいうと
物語は3部構成
『こころ』は以下の3部で構成されています。
それぞれについて分かりやすく・簡単に解説します。
第一部:先生と私
先生と私の出会いから、親しくなるまでの様子が語られます。
その過程において、先生の発言はことごとく意味深で、過去に何があったのよ、と匂わせるパート。
第二部:両親と私
「私」の父が病気になり、先生のもとを離れて一時的に故郷に帰省します。
明治的な考えを持つ両親との関わりを描くことで、「私」の考え方や「先生」に抱いている思いなどが読み手に伝わります。
このパートは、帰省中の私に「先生」から遺書が届いたところで終わります。
第三部:先生の遺書(核心)
ここが物語の核心です。
語手が「私」から「先生」に変わり、先生の遺書が本文となるパートです。
先生が「私」に宛てた手紙の中で、過去の罪をすべて告白します。
- 親友Kと同居していた
- 先生はKを裏切る
- Kが死を選ぶ
- 先生も死を選ぶ
① 親友Kと同居していた
- 下宿先の娘に、先生もKも惹かれる
- Kは「理想の生き様」を重視する、よく言えば実直、悪く言えば頭の硬い人物
② 先生はKを裏切る
- 本当は自分も娘が好きなのに、Kには言わない
- Kの相談に乗るふりをして、話を聞き出す
- Kから、どうしようもなく娘を好きだと打ち明けられる
- その上で、先に娘と結婚の約束を取り付ける
先生はKに対し、親しい間柄ながらも「精神的には勝てない」というような敗北感があった。
それによる恐れや嫉妬から、Kを出し抜いた。
③ Kが死を選ぶ
- Kは、先生の裏切りともいえる行動を知るが、態度も変えず変わらぬ様子
- お祝いをしたい、などという発言も残す
- そしてすぐに、何も語らず命を絶つ
- 遺書でも先生の裏切りのことには触れていない
- 先生には、墓のことや故郷への連絡のことなどを頼みたいということのみが書いてある
- 娘のことにはまさかの一言も触れていないので、先生にとっては逆に恐怖
直接手を下したわけではないが、先生はKの死を「自分のせい」と思い一生背負いこむことに。
④ 先生も死を選ぶ
先生は、自分の過去を手紙で「私」に全てさらけ出し、自ら命を断つ。
『こころ』結局何が言いたいの?
いや、何が言いたいのよ。
暗い、暗すぎるよ。
え、終わり?
そんな感想を持ってしまう人もいるかもしれません。
しかし大人になった今、夏目漱石が描きたかった人間の「こころ」がなんとなくわかるような気がしました。
人は分かり合えない
登場人物の中には、誰一人悪人がいない。
にも関わらず、迎えた結末が「親友二人とも自死」であるとは、あまりにも悲惨。
親友同士でもすべてを話すわけではなく、近しい間柄だからこそ言えないことも。
これは、時代のせいではなく人間本来の性質なのでしょうね。
- 親友でも本音は言えない、言わない
- 善人でも、自己保身はするし嫉妬もする
- 人は孤独である
罪悪感という呪縛
- 大体のことは時間が解決すると思っていたが、時間と共に重くなる「罪悪感」
- 他の誰も知らなくても、自分自身だけは欺けない
「こころ」は理想通りにコントロールできない
「先生」も「K」も、学問に通ずる者であり、人格者。
なのに、裏切り裏切られ、直接話し合うことなく自決。残った者も自決。
「死ぬことないでしょ!」
と正直思いますが、自決が今より身近なものである時代のせいもあるのでしょう。
Kは先生を呪ったのではなく、「理想通りに生きられない自分自身」に絶望したのでは。

つまり、ダメな自分を受け入れられなかったのか。
「言葉にしないこと」もまた罪
個人的に、「K」も中々の曲者だと思いました。
先生が娘のことを好きだと、気づいていないわけないのでは・・
作中にそのような描写は一切なく、全て先生の主観で語られるので本当のところは分かりません。
でも、寝食を共にしている「先生」の挙動は把握できるわけで、目線とか娘との話し方とかで、「もしや」くらい思っていたのではないでしょうか。
そんな中、自分を出し抜いた先生に対し
- 責めない
- 何も言わない
- 普段通り接する
これは、中々の仕打ちですよね。
おかげで先生は、Kの死を自分のせいと背負いこみ、幸せになることができずに悲しい最後を遂げます。
幸せの陰にはいつもKの存在が付きまとい、先生は、真の幸せを感じることはなかったでしょう。
罪深いよ・・
「自分が死を選ぶのは、君のせいじゃない」と、もし思っていたなら、伝えてやりなさいよ。
「Kを裏切って先に告白をした先生」より、何も告げずに逝ったKが、悪人ではないですが一番罪深いように思います。
賛否ありそうですが。
正直レビュー(忙しい人向け)
『こころ』は、表面上のストーリーだけに着目すると、「地味で暗い話」です。

なので読む場合は、そもそもあっと驚く奇抜なストーリー展開や、衝撃の真相を楽しむための小説ではないことを念頭に置いてください。
でも、そんなアップダウンのない内容なのに、不思議と風景や人物の様子を、まるで映像を見ているかのような感覚になり、物語に引き込まれます。
描写や説明などの、文章力が巧みなのだと思います。
- 「先生」の生き方や思想の由来
- 「私」の先生に対する思い
- 「K」の行動心理
などを考えながら読むと、とても奥深い。

人のこころって、理想通りにいかないものよね。
どれだけ人格者でありたいと願っても、人間って優柔不断でズルいのが切ない。
それは、自分の中の痛いところを突かれたような感覚でもあり、そういった意味で楽しめました。
100年以上前に発表された小説なのに、人のこころの有り様って変わらないのですね。
- 驚き:なし
- 読後感:重い
- 「こころ」はコントロールできない
- 「こころ」には利己的な側面と、良い人でありたいという願いが共存している
- 登場人物の心の動きの描写が見事
- 悪者がいないのに悲劇が起こるのが切ない
- 奥さんがかわいそうだけど、それも先生の優しさか
- 「映像を見ているように情景が浮かぶ文章力」に引き込まれる
- おすすめ度:★★★☆☆
- 以下のような人にだけ、自分で読んでみることをおすすめします
- 文学作品に触れてみたい
- 普段から色々な本を読むうちの一冊として
- 100年前の文豪の作品を堪能したい
まとめ:『こころ』は人間の本質を鋭く描いた名作
夏目漱石の『こころ』は5行でまとめると以下のような作品です。
- 人間の孤独や罪悪感を描いた暗い話
- 映像を見ているような感覚になる漱石の文章力も、この小説の魅力の一つ
- 登場人物の心理描写が丁寧で、読み進めるほど緊張感が高まる
- 読後感は重い
- 100年前に書かれたのに、自分の奥底にある痛いところを突かれたような感覚になる
人間の本質を鋭く描いているため、時代を超えて読み継がれる名作です。
もう読まなくて十分な人は、読書代行の目的を果たせたので良かったです。
興味が湧いた人は、ぜひ読んでみてください。
ではまた。

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